コーヒーの雑味とは
コーヒーにおける「雑味」とは、本来そのコーヒー豆が備えているはずの清らかな酸味、芳醇な甘み、そして心地よいコクを遮り、飲む人に不快感を与える味覚的・嗅覚的要素の総称です。専門的な評価の文脈では、雑味がない状態を指す「クリーンカップ(Clean Cup)」の対義語として位置づけられ、舌に残るしつこい渋み、喉を刺すような過度な苦味、あるいは泥臭さやカビ臭といったネガティブなフレーバーを指します。雑味の正体は、物理的には未成熟な豆に含まれる過剰な有機酸や、酸化した脂質、あるいは抽出過程で溶け出す高分子の多糖類やタンニンなどです。これらの成分が複雑に絡み合い、コーヒー本来の風味を「濁らせて」しまうのです。

コーヒーの雑味が出る原因
コーヒーの風味を損なう雑味には、明確な発生源が存在します。これらは栽培・精製の段階から、焙煎、保管、そして最終的な抽出に至るまで、あらゆる工程に潜んでいます。
コーヒー豆に欠点豆が多い
雑味の最も根源的な原因は、原料となる生豆の中に「欠点豆」が含まれていることです。欠点豆とは、通常の健康な豆とは異なり、生育不良、病虫害、精製過程の過失などによって変質した豆を指します。これらはたとえ一粒であっても、カップ全体の風味を著しく汚染する力を持っています。
| 欠点豆の種類 | 物理的特徴 | 雑味への影響 | 主な原因 |
| 黒豆 | 豆全体が黒変 | 泥臭さ、腐敗臭、強いエグ味 | 収穫遅れ、土壌への接触 |
| 発酵豆 | 黄色から茶色に変色 | 酸っぱい刺激臭、酢のような味 | 精製時の水質汚染、過発酵 |
| カビ豆 | 表面にカビが付着 | カビ臭、埃っぽさ | 乾燥不十分、高湿保管 |
| 未熟豆 | 焙煎しても色が薄い | 強い渋み、青臭さ、穀物臭 | 未成熟な実の収穫 |
| 虫食い豆 | 小さな穴が開いている | 風味の濁り、異味 | 害虫による食害 |
特に未熟豆は、焙煎後の外観では判断しにくい場合がありますが、抽出液には鋭い渋みをもたらします。これらの欠点豆を排除するためには、人の手による「ハンドピック」という地道な作業が欠かせません。

いろんな品種のコーヒー豆が混ざっている
コーヒーの品種(アラビカ種、カネフォラ種など)や、その中の細かな系統が不均一に混ざり合っていることも、雑味の一因となります。これを「品種の混在」と呼びます。個々の品種によって豆のサイズ、密度、含有成分が異なるため、同じ条件で焙煎を行うと火の通り方にムラが生じます。
例えば、密度の高い豆に火を合わせると密度の低い豆は焦げてしまい(過焙煎)、逆に合わせると密度の高い豆は芯まで火が通らず(未焙煎)、生焼けの状態となります。この「焼きムラ」が、焦げた苦味と生臭いエグ味を同時に生じさせ、複雑な雑味を形成するのです。シングルオリジンや農園指定のスペシャルティコーヒーが好まれるのは、こうした品種の均一性が確保されており、クリーンな焙煎が可能であるためです。

ペーパードリップが雑になっている
抽出、特にハンドドリップにおける技術的な不備は、優れた豆からも雑味を引き出してしまいます。代表的な失敗は、抽出時間が長すぎること(過抽出)です。コーヒーの成分は、注湯の初期に酸味や甘みが、後半になるにつれて苦味や雑味成分が溶け出すという性質を持っています。抽出時間を「3分以内」に収められない場合、豆の奥にある不要な渋みやタンニンがカップに混入してしまいます。
また、ドリップ中に発生する「泡(灰汁)」の扱いも重要です。お湯を注ぎすぎてドリッパーの縁に付着した粉の壁を崩すと、中央に溜まっていた雑味の塊(灰汁)がフィルターを素通りしてサーバーへ落ちてしまいます。一定の温度、適切な注湯速度、そして雑味が出る前に抽出を切り上げる判断が求められます。

コーヒー豆が古い
コーヒー豆は焙煎された瞬間から劣化(酸化)が始まる生鮮食品です。特に、豆に含まれる脂質が空気中の酸素と反応する「脂質酸化」は、雑味の大きな要因となります。酸化が進んだ豆で淹れたコーヒーは、古い油のような不快な臭いや、ツンとした刺すような酸味(酸敗臭)を放ちます。
コーヒー豆の鮮度を維持する期間は、豆の状態で約1ヶ月、粉の状態で約2週間が目安とされています。この期間を過ぎると、コーヒーの美味しさを支える炭酸ガスが抜けきり、代わりに空気が入り込んで酸化を加速させます。オリティエが「注文ごとに焙煎」することにこだわるのは、この酸化を極限まで抑え、最も新鮮な状態で提供するためです。

粉の挽き加減が不均一
コーヒーを粉砕(グラインド)する際、粒度が揃っていないことも雑味を誘発します。特に、極端に細かい「微粉」の存在が問題となります。
- 過抽出の発生: 微粉は表面積が大きいため、お湯が触れた瞬間に成分が出尽くし、抽出の後半にはエグ味を出し始めます。
- 目詰まり: 微粉がフィルターの目を塞ぎ、お湯が落ちる速度を低下させます。これにより、全体の抽出時間が延び、過抽出を加速させます。
- 未抽出の混在: 逆に粒が大きすぎる粉からは十分な成分が出ず、味の薄さと雑味の重さが混ざった「濁った味」になります。
均一な粒度を実現するためには、高性能なミルを使用し、粒の大きさを揃えることが不可欠です。
コーヒー銘柄のグレードが低い
市場に流通するコーヒーには厳格なグレード(等級)が存在します。一般的に「コモディティコーヒー」と呼ばれる低グレードの豆は、広大な農園で機械収穫されることが多く、前述の欠点豆や未成熟豆の混入率が元来高い傾向にあります。
| コーヒーの分類 | 品質基準 | 雑味の傾向 |
| スペシャルティ | カッピングスコア80点以上。 | 雑味が極めて少なく、個性的。 |
| プレミアム | 特定の産地や規格を満たす。 | 比較的安定しているが、稀に雑味あり。 |
| コモディティ | 大規模流通品。 | 雑味が強く、個性が乏しい場合が多い。 |
コーヒーの雑味を取って美味しく飲む方法
雑味を排除し、コーヒー本来の輝きを取り戻すためには、豆の選定から抽出に至る各ステップでの「正確な作業」が必要です。
スペシャルティコーヒーを選ぶ
雑味を避ける最も効果的な方法は、出発点となる豆に「スペシャルティコーヒー」を選ぶことです。スペシャルティコーヒーは、日本スペシャルティコーヒー協会(SCAJ)などの厳格な基準をクリアした豆であり、欠点豆の混入が極めて少なく、栽培から精製までの履歴が追跡可能です。
高品質な豆は、それ自体が持つ甘みや風土(テロワール)由来のフレーバーが強いため、多少の抽出ミスがあっても雑味に負けない力強さがあります。
新鮮なコーヒー豆を購入する
鮮度は雑味を抑えるための絶対条件です。理想的なのは、焙煎直後の豆を購入することです。コーヒーローストオリティエのように、注文を受けてから生豆を焙煎するスタイルは、最も酸化が少ない状態でコーヒーを家庭に持ち帰ることを可能にします。
新鮮な豆は抽出時にお湯を注ぐと、炭酸ガスによってふっくらと膨らみます。このガスがコーヒー粉と水の接触時間を適切にコントロールし、雑味の溶出を防ぐバリアとなります。また、保管の際は空気に触れないよう密閉容器に入れ、直射日光を避けることが重要です。
丁寧にコーヒードリップする
抽出の際は、お湯の温度や時間を一定に保つことが求められます。以下の手順を意識することで、雑味を劇的に減らすことができます。
- 温度制御: 沸騰したての熱湯は避け、85℃〜90℃程度に調整します。深煎りの場合はさらに低めの80℃〜85℃にすることで、過度な苦味を抑え、コクを引き出せます。
- 蒸らしの徹底: 最初に少量のお湯を注ぎ、30〜40秒待ちます。これにより粉が均一に湿り、成分が溶け出しやすい道筋ができます。
- 抽出時間の厳守: 抽出レシオ(粉とお湯の比率)を1:15程度に固定し、3分以内に抽出を終えます。
最後を落とし切らない: サーバーが予定の量に達したら、ドリッパーにお湯が残っていても外してください。最後の数滴に集中する雑味をカットするためです。
自分でハンドピックする
プロが行うハンドピックを、家庭でも実践することは非常に有効です。購入した豆の中に、明らかに色が薄い豆(未熟豆)や、形が歪な豆、欠けている豆を見つけたら、抽出前に取り除いてください。
一見地味な作業ですが、20gの豆に対してわずか数粒の欠点豆を取り除くだけで、液体の透明感が飛躍的に向上します。オリティエでは焙煎前後に徹底して行っているこの作業を自身で行うことで、コーヒーに対する理解と愛着も深まるでしょう。
均一に粉を挽くようにする
粒度(メッシュ)の均一化は、雑味のない抽出の要です。家庭では「プロペラ式」の安価なミルではなく、臼式やカット式のミルを使用することを強く推奨します。
| ミルの種類 | 粒度の均一性 | 雑味の出やすさ | 特徴 |
| プロペラ式 | 低い | 高い | 叩き切るため微粉が多く、粒が揃いません。 |
| 臼式(手挽き) | 中〜高 | 低い | 摩擦熱を抑えつつ、比較的均一に挽けます。 |
| カット式 | 極めて高い | 極めて低い | 業務用に多く、粒度分布が非常にシャープです。 |
雑味が少ないコーヒー豆は…
雑味の少なさを追求するならば、産地の特性を理解することが助けになります。一般的に、高地で栽培され、丁寧に水洗処理(ウォッシュド)された豆は、クリーンカップになりやすい傾向があります。
オリティエのおすすめとして、まずは「コロンビア産 クレオパトラ」を挙げたいと思います。この豆は酸味と苦味のバランスに優れ、雑味が少なく、コーヒー選びに迷った際の指針となる銘柄です。
https://cbd.oritie.jp/product/columbia-cleopatra
また、「エチオピア産 モカ・イリガチャフィ」は、その華やかな香りを損なわないよう高度な精製が施されており、紅茶のような透明感を楽しむことができます。
https://cbd.oritie.jp/product/mocha-yirgacheffe-g1
最終的に、雑味の少ないコーヒーを実現するのは「鮮度へのこだわり」です。オリティエでは、30種類以上の生豆から、お客様の好みに合わせてその場で焙煎を行います。この「煎りたて」という最大の武器こそが、すべての銘柄から雑味を遠ざけ、芳醇な香りだけをカップに閉じ込める唯一の方法なのです。
豊かなコーヒーライフは、雑味というノイズを取り除くことから始まります。適切な豆を選び、正しく挽き、丁寧に淹れる。その一連の儀式を通じて、コーヒーが持つ本来の輝きをぜひ体感してください。